水上葉と水中葉

理解しておきたい水草特有の構造など

ロタラインディカの水上葉


ロタラインディカの水中葉

 

水草は植物の世界のクジラだ!みたいな言い方がありますよね。

実際に水草水槽に使われる水草のほぼ全ては、分類としての「陸上植物(コケ植物+維管束植物)」で、陸上生活(気中生活)に一旦適応した構造を持ちながら、あえて水中に戻ったものですね。

 

実際にライフサイクルを通して100%気中に顔を出さずに過ごせるものはごくごく僅かで、例えば一見完全に水中生活に適応しているように見えて花だけは気中で咲かせるとかというものも多いんです。

それ以前に、水草水槽に使われる水草の殆どは、湿地植物や抽水植物であって、長期の枕水にも耐えられるってだけだったりします。

 

とは言え、まったく水草としての性質を持っていないものを水中に沈めたら比較的短期間で枯れて溶けてしまうように、水草は水中生活に適応するための様々な独自のしくみをもっています。

 

水草水槽を育成する技術については、農業園芸由来の知識を応用しているものも多いんですけど、この違いを理解しないで明らかに間違った理解になっている説明もたまに見かけます。

水草が水草でいられるしくみを理解しておくと、こういう誤解もしないで済むわけですね。

 

まずは水中と気中の違いについて。

植物から見た時に、水中は気中と比べて...

  • 遥かに温度が安定している。凍結しなければ0度を切ることもない。
  • 乾燥に耐える必要がない。
  • 葉から養分を得やすい。
    気中からはほとんど養分を得られない。
    また水中は乾燥した土壌と違って、常に水の流れで養分が運ばれてくるようになっている場所が多い。
    水を入れると養分もある程度入る水田と、肥料を足していかないと確実に枯渇してしまう畑との違い。
  • 体を支えるのに頑丈な組織を必要としない。少し浮力が得られれば立ち上がれる。
  • を得にくい。
    特に光合成に使用する割合が大きい赤い光の減衰が著しい。
  • CO2を得にくい。
    特に弱アルカリでは殆どのCO2がHCO3になってしまう。
    コケと違って水草の多くはHCO3を使うことが苦手。
    弱アルカリでも元気に育つという水草(ex.アナカリスなど)はHCO3を積極的に使えるというかたちで水中適応度が進んでいるものが多い。
  • 酸素を得にくい。特に水中の泥の中は嫌気環境化していることも多い。

 

なので、

水草は...中でも水中葉を出している状態では...

  • 水中葉には水上葉のような乾燥に耐えるための厚いテカテカしたクチクラの保護層が無い。その分水中葉のほうが透明感がある。
  • 保護層の分だけでなく、水中葉は水上葉よりも薄くできている。水中では姿勢を保つのに気中ほど頑丈な構造が必要ない上に、水上葉と比べると比較的弱められた光を扱うので葉緑体の層が薄くできている。
  • 畑作物が赤い光を最も光合成に活用する(もちろん、青も同じくらい重要だし...実は少しだけど緑も使う)のに対して、水草は青い光を最も使っていることが多い。...というか単純に赤い光が水中で極めて失われやすいからだけど。
    青い光が10数メートルの水深で半減するのに対して、赤い光はたった1.5メートルで半減、30センチ程度の深さの水槽でも底床面では2割近く失われます。
  • 水中葉には気孔が無い。CO2や酸素は薄い表面から直接吸収する。...厚い保護層を持たないのはこのためでもある。
    また、水上葉の気孔は余計な水分を蒸散させることで根からの水分(と同時に養分の)吸い上げに関係しているが、気孔がない水中葉は全体で水分を放出する。このことで、根からの養分吸い上げ、余分な物質の排出を行う。
  • 水中で立ち上がることは気中とくらべて頑丈な構造は必要ないが(少し浮力を持つだけで良いが)、少しの水の動きでも大きな抵抗を受ける。このために、水の抵抗をいなせるように葉をテープ状にしたり、細く尖らせたりしていることが多い。
  • 水中葉を細く薄く密にするのは、クチクラ層の無い葉の表面全体を使ってCO2や栄養素を直接取り入れる上で、広い葉より有利だからだ...表面積を稼げるからとも言われている。
    この理屈で言えば、細く薄い水中葉を出すものほど土中より水中の栄養が重要ということになるが、ブリクサのような例外もあるが、水上葉が広い丸い葉なのに水中葉は細くなるというものは...ロタラのようなものは、水中の栄養の重要度が高いというのは経験的にも「そうかもしれない」と思える。

さらに水没した泥の中は、

  • 酸素が極端に少ない還元的な環境になっていることが多い。
    根は酸素を周囲から十分に得られないので、積極的に葉から酸素を送り込む機能が発達している。
    よく分かりやすい例にあげられるのが、レンコンの空洞だらけの根。これは酸素を送り込むためのもの。
    「根張りが良い水草」というのは、多分に根に酸素を送る能力が高い水草ということ。一般に根張りが良い水草ほどソイルの泥化に強いし、また底床内の嫌気化を防ぐ効果も高い。
  • 土中は還元的な環境であることが多いので、畑などとは養分(肥料分)の在り方が変わる。特に窒素分は泥の中での硝化作用が進みにくいのでアンモニア態で吸収するものが多い。ほとんど硝酸態窒素を優先するものが多い畑作物・園芸作物との大きな違い。
    根からの養分吸収の割合が少なく葉面吸収の割合が高い水草は硝酸態窒素重視の可能性が高い。

 

最後に水中葉や水上葉の取り扱いについて。

  • 上記から、水上葉のまま水中に沈められるといろいろ問題があることが分かりますよね。水上葉で買ってきても水中葉が出るまではきちんと水中適応できていないわけです。
    だから、一般に水中葉で水草を買ってきたほうが水槽への適応は早いと言えます。水上葉を買ってきた場合は、さっさと増やそうとして幾つかに切り刻んだりしたりしないほうが良いです。まずは一所懸命水中葉を展開させようと力を注ぐわけですから。
  • それに、水上葉で買ってくると水中葉が展開しはじめるころには水上葉は枯れ落ちてしまってコケの原因になるし、見た目も良くないですよね。
  • 但し、常にそうかと言うと、十分に草体に余力がある状態であれば、水上葉のほうが水質変化に強い...これから新たに環境適応した葉を出していくということも言えます。
    水中葉は水上葉よりも遥かに繊細に出来ていて、外界の変化の影響を受け易いですから。
    また水中葉よりも水上葉のほうが硬いので、エビや魚に囓られにくいということも言えます。
    湿地性の植物は水位が低くて水から出ている状態で水上葉で、水位があがって水没すると状況に合わせて(水質に合わせた)水中葉を出してくるわけです。この時の再現が出来るわけですね。
  • つまり、さっさと適応させたいならできるだけ水中葉で買ってくる。
    水質適応などがビミョーなら...例えば、ソイルセット初期でかなりの軟水になっているところにキューバを入れるとかという時なら、あえて水上葉を入れる。それもできるだけ草体が立派な余力がありそうなものを選んで入れるという方が正解っていう場合も多々あります。
  • 買ってきた水中葉やトリミングで出た水中葉をストックするつもりで扱う時などは、気中に放置する時間を極力短くしましょう。できるだけスグに植えるか、水槽水に漬けておく、濡らしたキッチンペーパーなどで包んでおくなどしたが良いです。
    水上葉であればそれほど神経質にならなくても、ちょっとの間バットに並べておいたりしてもダメにはなりませんが、例えば水中葉を30分乾いたところに置いておいたらかなりのダメージ...水草の種類によっては完全にダメになっちゃいます。
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