水槽の環境バランスの捉え方

ネット上を見て歩けば、水槽の維持について、いろいろな考え方・時に相反するような方針が出てますよね。

  • 窒素処理が最大の問題。窒素を減らすことを再優先すべき。
  • 窒素はむしろ足さなきゃダメ。
  • 光量は大事。太陽光下並みの照度が必要。
  • 光量があり過ぎるのはコケのもと。
  • 掃除は出来るだけした方が良い。
  • 掃除はあまりしない方が良い。
  • 毎週1/3は換水しなきゃダメ。
  • 換水なんて滅多にしなくても良い。
  • … …

これらの多くは、おそらくどれも正しいと言えば正しいんですよね。

もちろん常に正しいわけじゃなくて、その人の水槽では...ってことだったりするわけですけど。

 

水草水槽ってことだけに範囲を限っても、底床の肥料分光量水草の性質と量、魚の量≒エサの投入量、CO2添加量、追加の肥料 … … とても多くの要因が絡み合います。

それぞれのバランス次第で、「正しい」アプローチと言えることが変わってきちゃうんですよね。

 

例えば、60cm水槽にネオンテトラが100匹なんてよくある状態ですよね。でもって、水草は陰性のものが控えめに入れられている…

こういう状態であれば、以下の様なことは殆ど正しいと言えるでしょう。

  • 強い光はコケのもと。
  • 肥料は、カリウム液肥主体で少しだけ入れれば良い。
  • 窒素を含む肥料などもってのほか。絶対にダメ。
  • 窒素処理を最優先。毎週最低1/3は水替えすること。
  • 毎週、底床をプロホースで掃除して、よく残餌や糞などの汚れを取り除くこと。
  • 時にはリン酸除去剤も使った方が良い。

 

逆に、60cm水槽にネオンテトラが20匹。陽性の成長力が高い水草がみっしり植えられているなんていう水槽だとしたら…

  • 光はかなり強めにしておかないとダメ。
  • CO2もたっぷり入れて、
  • カリウム等のミネラルはもちろん、窒素も足りなくなるから積極的に施肥を行い
  • 掃除や水換えはあまり熱心に頻繁にやる必要はない。

なんてのが、正解ってことになりますね。

 

結局は、いろいろな要素のバランスなんです。

 

だから、ネット上などにある断片的な「こうすべし」っていうアドバイスをそのまま受け止めちゃダメなんですね。

(もちろん、断片的にではなく、総合的にそう言っている人にとっての前提を把握しているなら、価値ある情報になりますけど)

 

その前に、自分の水槽のバランスについてのイメージを正しくもっておくことが大事です。

上の図は、全体のバランスを考えるときの概念です。

中心からの各要素の距離が供給量のイメージだと思って下さい。

つまりレーダーチャートですね。

 

a: 光量、エサの投入量、CO2添加量、肥料のバランスが取れていれば… もちろん実際はそれほど単純じゃないけど、大雑把に捉えれば…水草は健全に育つわけですね。

 

b: ところが、このバランスが崩れているとコケが異常に発生したり水草が適切に育たなかったりと水槽環境が崩壊していくわけです。

 

例えば、このbの場合は、全体のバランスとしてエサが多い。つまり、水草の活動量(硝酸などを消費する量)に対して魚が多いわけです。

ならば、選択肢のリクツとしては以下の2つです。

 

1: 過剰なエサによって蓄積していくものを、頻繁な水換え、底床や濾過槽の掃除、時にはリン酸除去剤などを使って、水槽外に排出していくことで結果的に小さな四角形(d)...低速型とすることでバランスさせる。

 

2: 水草の総活動量をエサの投入量に見合っただけのものにする。具体的には高成長する有茎草などを大量に植え、光量を増やし、CO2添加量を増やし、結果的に大きな四角形(c)とすること…高回転型にすることでバランスさせる。

 

どちらも、最後は何らかのかたちで水槽内に入れたものを水槽外に排出していくことになることには変わりはありません。

 

ただ、前者の場合だと、水換えや掃除による排出を頻繁に行うことになり、後者の場合だとトリミングによる排出分が多くなるということですね。

具体的に要素のバランスを考えていく時には優先順位がありますよね。

バランスさせることが目的じゃなくて、それは手段で、

育てたい水草を育て、飼いたい魚を飼うことが目的なのだとしたら、

それに合わせて優先順位を考えるべきですよね。

 

水草と魚で、水草を優先するのであれば、

まず最初に考えるべきなのは光量でしょう。

CO2や肥料は、後から簡単に状況に合わせた微調整が可能ですが、光量は基本的に(ライトの増設や撤去をしない限り)固定的ですよね。調整は、せいぜいリフトアップで弱くするか、照射時間を調整するくらいでしょう。簡単に調整可能な範囲はかなり狭いと言えます。

 

陰性水草に強光当てても良いことはないし、陽性の高成長する水草を健全に育てたいなら、まずは強光が必要です。

…例えば、グロッソをビッチリ ミッシリ這わせたいとかですね。

 

光量があれば、活発な光合成を行いますから、それに相応しいだけのCO2も必要になります。
光量が無いのにCO2の添加量が多いのは無駄なだけです。

 

光量があってCO2の量も多ければ、盛んに光合成を行って高成長しようとするので、エサからの供給が足りなければかなり積極的な施肥が必要になります。

逆に水草の総活動量に対して、入れたいだけ魚を入れたらエサが多くなりすぎるということなら、魚の量をガマンするってことになりますね。

 

大抵は、こんな順番で全体のバランスを考えていくことになると思います。

 

このバランスは、光やCO2や栄養素の「供給」、魚や水草の「消費」、トリミングや水換え・掃除のような「排出」のサイクルを回していくことになるわけですが、バランスの作り方によって、

排出されやすいもの・失われやすい(欠乏しやすい)もの、

消費されにくく排出されにくく蓄積して問題の原因になりやすいものが異なってきます。

 

詳しくは、水草の必須元素別の理解のところなどで説明していますが、水草主体の水槽、それも高回転型の水槽では特に、エサや肥料によって供給される栄養素について、もう少し細分化して考える必要が出てきます。

具体的には、カリウム(K)は必要量が多い割にはとにかく失われやすくエサだけでは充分な供給が出来ないので、カリウム施肥は必須になります。

それだけでなく、エサの量が少ないと窒素(N)も足りなくなることが多くなります。

 

エサに含まれる窒素とリンの割合は、水草が消費する割合と比べてリンが多めなので、窒素添加が足りないとリンが余って蓄積し、様々な問題の原因になったりもします。

この全体のバランスという観点で見た時に、バランスを取るのが比較的容易なパターンと比較的難しいパターンがあります。

 

簡単なのは、cの成長力(消費力)が高い高回転型のパターンですね。

なぜなら、もし何かの供給が多過ぎたらその後で絞れば簡単にバランスを取り直せるからですね。

dのように成長力(消費力)が低いと、何かが余ってしまったとしてそれだけを上手く取り除くっていうのが難しくなるからです。

 

例えば、ちょっと肥料を入れすぎたとしますよね。

cなら少し経てば水草が使い切ってくれます。

ところが、dだとなかなか水草が使い切ってくれなくて、その間、ずっとコケの大量発生の可能性が高まりつづけます。

大量換水などすれば、硝化バクテリア底床微生物に大きな影響を与えてかえって処理力を落とすこともあります。

立ち上げ期にバランスを崩していると、換水のし過ぎで立ち上げがどんどん遅れていく...不安定になっていくということもあります。

さらに、その後ちょっと長期的に見れば...半年もすれば、水草の栄養のバランス取りが難しい状況だと、リンの蓄積などやっかいな問題も出てきやすくなります。リンの蓄積は黒ヒゲを招いたり、水草にとっては毒になるリン酸鉄の形成につながったりと良いことはないですね。

 

足りないものを足すのと、要らないものを排除するのでは、要らないものだけを上手く排除するほうがずっと難しいわけです。

 

まったくの初心者によくあるのが、よく分からないからこそおずおずと始めたい。最初からあまり投資をしたくない。

小さな水槽、小さな光量、少ない水草、CO2は無添加...
その上、魚の数だけはフツーにいっぱい入れちゃう。

もうサイアクです。

これはもう、いちばん難しいパターンですね。

私もいちばん最初はそんな感じでした。

で、ひどい目にあう。

結果的にはかなりの遠回り・余計な時間と余計な散財をすることになる。

じゃなきゃ諦めちゃうってのもありますよね。

 

もちろん遠回りしてこそ覚えられることってのもあるわけですけど。

 

でも、そんなのはイヤだというなら、

最初のうちは、60cm規格水槽、沢山の成長力のある水草、強い光、CO2添加、少なめの魚(少なめのエサの投入量)という、比較的バランスを取りやすいパターンが良いと思いますよ。

こういう構成であれば、バランスが悪くなっていても、後から少しずつ足りないものを...肥料分とかを足して行ってバランスを取ることが容易にできますから。

 

コメント: 6
  • #6

    水換え774L (日曜日, 02 9月 2018 21:40)

    アクアリウムは化学なんだけど
    理解しない人達が多いよね。
    その点このサイト(主)は凄い。

  • #5

    名無し (木曜日, 07 7月 2016 16:42)

    分かりやすい!
    最初にこの記事に出会っていれば・・・

  • #4

    rotala (木曜日, 20 11月 2014 00:45)

    ありがとうございます!
    コメントもらえると嬉しいです。
    120cm水槽ですか。うらやましいな〜。

  • #3

    名無し (木曜日, 20 11月 2014 00:20)

    同じく良い記事だと思います
    よくある、これが良いアレが良い。といった断片的な記事じゃなく総合的で、初心者こそ知っておくべき内容だと思いました
    念願の120cm水槽を大崩壊させた自分としては身につまされる記事でしたw

  • #2

    rotala (金曜日, 26 9月 2014 03:30)

    良い記事だと言ってもらえるととてもうれしいです。感謝! ...ほんとコメント無いんですけどね。w

  • #1

    通りすがり (金曜日, 26 9月 2014 02:23)

    いい記事だと思うんだけどなぁ。
    コメント全然ないのはなんでだ。