水槽について
よく「初心者は60cm規格水槽からはじめるべきだ」みたいなことが書かれているところがありますよね。
初心者ほど、「この先どれほど本気でやり続けるか分からないし、ひとまず手軽そうな小さめの水槽で始めてみよう!」なんて考えるものですし、私もそうだったりしたんですが、これは今では「大間違いだった」って断言できます。
まずはその理由について。
60cm規格水槽のメリットは(あるいはこれ以外だといろいろ問題があるというのは)、主に以下の3点です。
-
コストパフォーマンスが最も良い。適合周辺機材が最も充実していてそのコスパも良い。
- もっとも普及している...数が出ている水槽なので、もっとも割安で、さらに周辺機器も60cm規格水槽に合わせたものが最も多く出ており、それらのコスパも良い。結果的に60cm規格水槽がイチバン安く出来たりする。...か、どうかは機材を揃える条件にもよるけど、そう言えるケースが多いと言えるほどに割安。
-
水槽内の環境が安定する。
- あくまでも「より小さい水槽」と比べてということ。もちろん60より90cm水槽の方がより安定させやすい。
-
比較的取り扱い易いと言える水槽サイズの上限。
- 90cm規格以上のガラス水槽とか重すぎて移動させたり洗ったりとかするとしたらかなり大変。特に力持ちなら別だけど。120だとかなり力持ちでもキツイ。
- 1/4水換えも60cm規格なら丁度バケツ1回だけど、90だと4-5回。かったるさ5倍。
■水槽サイズ別の水量と表面積の関係
より小さい水槽よりも「水槽内の環境が安定する」ってことについては、まずは以下の表を眺めてみてください。
水量L |
水面面積 底床面面積 cm2 |
表面積 cm2 |
水面 /水量 |
表面積 /水量 |
|
30cm 規格 |
13 | 540 | 3384 | 42 | 261 |
45cm 規格 |
32 | 1080 | 6300 | 33 | 194 |
60cm 規格 |
65 | 1800 | 10080 | 28 | 156 |
90cm 規格 |
182 | 4050 | 20250 | 22 | 111 |
120cm 規格 |
243 | 5400 | 25650 | 22 | 106 |
- 注意。水量は、ガラスの厚みや現実的に水を注ぐ高さ、ソイルの量などを無視して水槽の外形サイズから単純計算したもので、実際はもう少し小さい数字になります。例えば、60cm規格水槽の水量は一般に57リットルって言われていますよね。
- 「表面積」は、水槽を立方体として見た時の6面の面積の合計です。
- 「水面/水量」は、水面の面積を水量で割ったものです。数字が大きいほど水量に対して水面の割合が大きいということになります。
- 同様に「表面積/水量」は、数字が大きいほど水量に対して表面積が大きいということになります。
水量(体積)と表面積の関係ですけど、
水槽が例えば一辺10cmの正立方体だとすると、水量は10×10×10で1,000ですよね。この表面積は、(10×10)×6で600です。
水量:表面積=10:6。
では、一辺が100cmだとすると、水量は1,000,000、表面積は、60,000。
水量:表面積=100:6。
まるで違いますよね。
水槽サイズが大きくなるほど、水量に対して表面積の割合が小さくなるわけです。
では、この表面積がなにを表しているかというと、外界からの影響の受け易さです。表面でのガス交換とかを無視すれば、ほとんど室温の影響ですね。
つまり、大きい水槽は小さい水槽と比べて、遥かに熱しにくく冷めにくい。大きい水槽は室温で水温が変わりにくいし、ヒーターやクーラーの効きも遥かに良い・作動時間が短くて済む。
もちろんこれは、水量あたりの消費電力とかってことですよ。大きい水槽のほうが小さいヒーターで良いなんてことは無いです。当たり前ですが。
この変化の小ささ...水温が安定しているというのは、生き物にとってはとても大事なことです。
子供のほうが大人より環境変化に弱い...急に寒くなったり暑くなったりするとスグに体調を崩したりしやすい...というのは、もちろん免疫が出来切ってないというのが大きいわけですが、体重と表面積の関係で大人より遥かに外界の変化の影響を受けやすいというのもあるわけです。
さらに、この水量と面積の関係はアクアリストの心理面にも影響します。
どういうことかと言うと、
水槽を眺めるのは正面ガラスからですよね。大抵は。
その正面ガラスから見て、どれだけの魚や水草が見えるのか?って大事じゃないですか。
サミシイ状態よりは賑やかな状態の方が良い。
ついついそうしてしまう。初心者ほど賑やかにしたがる。
では、水量あたり同じだけの数の魚を入れたとして、例えば仮に1リットルあたり1匹の魚を入れたとして、
正面ガラスの面積あたり、どちらの方が多くの魚が眺められますか??
例えば、30cmと60cm規格水槽ではかなり景色が変わってきます。
60cm規格だと、2160平方cmの窓から65匹の魚が見えます。1平方cmあたり0.030匹。10cm×10cmの窓からなら3匹見える。
30cm規格だと、720平方cmの窓から13匹の魚が見えます。1平方cmあたり0.018匹。10cm×10cmの窓からなら1.8匹見える。
つまり、より大きい水槽ほど、正面から見える魚の密度をずっとあげられるんです。
逆に言うと、小さい水槽ほど初心者は、見た目がサミシイから思わず過密にしてしまいがちになる。
この心理効果って想像している以上に大きいんですよ。
当たり前ですけど、水量あたりの魚の数って大事ですよ。
健康的に飼おうと思ったら、水量あたりの魚の数は少ない方が良いですから。
だから、見事な「群泳」とか見たかったら大きめのサイズにしないと。だいたい魚が気持ちよく泳げないし。スグに壁にあたってターンしなきゃならないとなると本来の動きにはならないですよね。
ちなみに先程の例の1リットルに1匹というのは、あくまでも計算の例で、まるで参考になりませんからね。これは水槽の条件やかける管理の手間などで適正値は変わりますから。
良くこなれた調子の良い水草水槽...60cm規格水槽として、水換えなどの手間を惜しまないならネオンテトラサイズを100匹でも決して無茶とは言えませんし、まっさらから立ち上げたばかりの水槽で水草も少ない状態で管理ノウハウも充分でないということなら10匹でもかなり多すぎだと思いますから。
ついでに、昔から言われている目安は「水槽水1リットルに1cm(の魚)」ってのですね。つまり60リットルの水槽なら3cmのネオンテトラを20匹飼える」ってことです。
話を戻して、今度は魚ではなく、水槽サイズと水草の密度感の関係は、ちょっと別なんですけどね。
例えば、特に前景草とかの量は、底面積が重要ですから。
でもまー、魚の数と水槽サイズの関係の印象ほどには極端にはならないし、割合はともかくとして単純に水槽が大きいほうが沢山植えられますからね。
ほかにもこの見かたを元にして、水面の面積と水量の関係(ガス交換効率など)、照明の効率、CO2添加の効率、水流づくり、液肥の効き具合、ソイルと水草の量の関係... ...などからも言えることがあるんですけど、長くなりそうな割に いろいろ考えたとしても、水草水槽と呼べるような状態でCO2添加していてそれなりの数の魚も入れるなら、多くの場合、現実的に結局はビギナーには60cm水槽くらいがオススメ(あまり小さい水槽にし過ぎない方が良い)という結論になるので割愛します。
■水槽のカタチ
先程は規格水槽を例に書いていましたが、水槽全体のカタチは今は本当にいろいろありますよね。
正立方体のキューブタイプ、背が高いもの、低いもの、幅があって奥行きが小さいもの... 本当にいろいろです。
また使われているガラスが平面だけでエッジが立ったもの、ガラス面に様々な曲げが入っているものといったデザインの違いもありますよね。
これらの豊富なデザインの中から選んでいく上でポイントになるのは、
- まずは前述の水量と表面積の関係の問題を意識しましょう。
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キューブタイプなどは、見た目の印象よりもずっと水量はありますね。例えば、40cmキューブと45cm規格水槽なら40cmキューブのほうがずっと水量があります。
40cmキューブは60cm規格水槽に近いくらいありますね。 - 逆に90cmの横長スリムタイプは40cmの背が高いタイプより水量が無かったりします。
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キューブタイプなどは、見た目の印象よりもずっと水量はありますね。例えば、40cmキューブと45cm規格水槽なら40cmキューブのほうがずっと水量があります。
- 水量問題は重量問題...キャビネット選び問題。
- 規格水槽で言うなら、30cm規格水槽ならグラグラせず水平が取れていて安定していて水にも強い材質なら、例えばIKEAのキャビネットみたいなものに水槽を載せてもまず問題はありません。
- 60cm水槽だと、専用の水槽台に載せないと危ないです。...ってことは、40cmキューブや3-40cm台でも背が高い水槽は専用の水槽台が必要だってことですね。
- 微妙なのは40cmクラスの水槽で、30リットルくらいの水量なら、ちょっとしっかりしたキャビネットなら大丈夫だったりもしますけど、そこは冷静に判断しましょう。一見大丈夫そうでも、専用のものでないと、徐々に重みで歪んできたりもします。
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水草レイアウトの観点
- 横長の90cmスリムのようなものは、奥行きがないので正面から見た時に景色に厚みがないかなりサミシイ印象になります。ただ水草が横に並べられているって感じで景色になりにくいです。奥行きは大事です。特に前景草をたっぷり使うなら。この点でキューブタイプは奥行きがあるので良いですよね。
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水槽の背の高さ(深さ)とトリミングや照明などの関係
- 背が高めの水槽がありますが、照明の光は水中では空中より遥かに減衰するので、より強力な照明にしないと特に前景草などは育ちが悪くなります。
- 当然ですが、背の高さとトリミングの頻度は大いに関係があります。背が低いと頻繁にトリミングする必要が出てきますけど、背が高いとそれだけ放置していられるわけです。もっとも深くて狭いとトリミングはしずらくなりますけど。
- 背が高いということは、水量に対して水面が小さいということで、沢山の水草があってCO2添加しているなら、CO2の逃げも少ないし、水草が出す酸素もよく保持します。
逆に水草が少なくてCO2添加をしていない状態だとすると水面の小ささは溶け込む酸素が少ないということで魚の健康にはよくありません。こういう場合は、かなり積極的なエアレーションが必要になります。 - 特にかなり背が高い水槽は、上下の水流をちゃんと付けてやらないと、底の方と上の方でかなり温度が違うとか、酸素やCO2濃度が違うなんてことも起きやすくなります。給水パイプも長めにしないと、底の方の汚れた水をフィルターに送れないですしね。
- 水草が縦に沢山入る・水量に対して底面が小さいということソイルの量に対して水草が多めになるということで、ソイルの栄養切れが早くなる可能性が高い。施肥問題に悩まされる。水圧でソイルが傷みやすく...潰されやすくなるってことでもあります。
- なので、背の高い水槽は様々な点で機材でしっかりサポートする必要があるとは思うのですが、地震対策とか考えると、あえて背が少し高めの水槽を選んでおいて、水を少なめに入れておくというのもアリだと思っています。もっともこの場合は給排水パイプ...特に排水パイプの工夫が必要になりますけど。照明の取付も工夫しないと位置が不必要に高くなっちゃうってこともありますね。
- 背の高さ(深さ)がいろいろと面倒を生みやすいということはわかったと思いますが、逆に言うと、浅くて水量に対して水面が大きい水槽は(CO2添加やエアレーションをしていないような場合には)魚を健康に育てやすいということも言えます。
-
曲面ガラス。
- 正面全体にアールが入っていたり、正面と側面を1枚のガラスで角のところを緩やかなカーブを付けて曲げている水槽などは、インテリアとしては魅力的でもありますが、アールが入っているところで必ず像が歪みますから、中の水草や魚の見え方は不自然になりますよね。写真とかも撮りにくいです。
あと、カーブがついたところは掃除もしにくい。
このあたりを理解した上でやっぱりアールが付いたものが良いなら、それは純粋に好みの問題ですね。
- 正面全体にアールが入っていたり、正面と側面を1枚のガラスで角のところを緩やかなカーブを付けて曲げている水槽などは、インテリアとしては魅力的でもありますが、アールが入っているところで必ず像が歪みますから、中の水草や魚の見え方は不自然になりますよね。写真とかも撮りにくいです。
■水槽の材質・構造など
- ガラスかアクリルか?
- アクリルはガラスよりも遥かに透明度が高いし、軽いし、注文で好きなカタチのをつくってもらえるし、衝撃にも強いし...とほとんど良いことづくめって感じですが、決定的な弱点は、傷の付き易さですよね。掃除は慎重にせざるを得ない。
それから、耐候性の低さ...紫外線で劣化しやすい・寿命があるってことも問題ですね。
90cmくらいまでの水槽なら迷わずガラス製でしょ。 - ガラスにもいろいろあって、フツーのものより一段透明度が高いクリアガラスタイプもあります。とは言ってもアクリルの透明度に比べたらたかがしれてますけど。
- アクリルはガラスよりも遥かに透明度が高いし、軽いし、注文で好きなカタチのをつくってもらえるし、衝撃にも強いし...とほとんど良いことづくめって感じですが、決定的な弱点は、傷の付き易さですよね。掃除は慎重にせざるを得ない。
- フレーム付きかフレームレスか?
- ガラスをフレームで留めているタイプのものは、当然丈夫...というか、水槽のヘリに衝撃を与えて割ってしまうという事故を防ぎやすいですね。
またフレーム付きのものは、底面に台座があってガラスが直接水槽台に触れないのでそこも安全です。
逆にフレームレスの場合は、金属枠だけの水槽台は使えなくてまっ平らな設置面がないとダメですし、間に専用のウレタンマットを敷いておかないと事故の元です。ガラスが底面で割れたりする事故はけっこう起きてますよ。 - ただ、最近はフレームレスが完全に主流で、様々な照明の取付などの機材もフレームレス水槽を前提にしていることが多いので...ガラスのフチに止めるところが5mm厚を前提にしているなど...、このあたりも意識しておきましょう。
- それにだいたい、水草水槽をやるなら、スパッと水を切り取ってきたという印象のフレームレスのほうがやっぱり美しいって個人的には思います。
- ガラスをフレームで留めているタイプのものは、当然丈夫...というか、水槽のヘリに衝撃を与えて割ってしまうという事故を防ぎやすいですね。
- シリコンの色
- フレームレス水槽であれば、ガラスを接着しているシリコンの色も気にしましょう。やっぱり白やグレーは目立っちゃってダメですね。クリアかブラックか...バックスクリーンを黒にするならブラックとか、そうでないならクリアとかにしたいですね。
- バックスクリーン
- 水槽を買う時にバックスクリーンも一緒に買う・なんなら面倒だからお店で張ってもらうって人もけっこういるんじゃないでしょうか?
水槽の後ろに隠したいものがあるとか、水草や魚の色を引き立てたいとか、広く見せたいとか。 - 水草水槽だと、水草や魚の色を引き立てる・引き締まって鮮やかにみせるブラックや黒に近いような印象の青とかだと、鏡のようにもなったりもしますよね。
透明感を強調したいなら、サンド(擦りガラス調)というのもあります。私はサンドが好きですね。 - ただ、サンドタイプは、半透明なので、ぼんやりとではあるけれど、後ろにあるものがけっこう見えちゃいます。ここは気をつけたほうが良いですね。
後ろに給排水ホースとか置いたら丸見えって感じですね。
なので、後ろの壁の色とかも見栄えに強く影響してきます。
サンドタイプのような半透明のものは、後ろに照明を入れて演出するなんてこともできますけどね。斜め下から照らすとかね。
- 水槽を買う時にバックスクリーンも一緒に買う・なんなら面倒だからお店で張ってもらうって人もけっこういるんじゃないでしょうか?
水槽って機材全体の中では、どちらかと言えば安い方ですけど、だからって、あまりに気軽に気分で選んじゃうと、後でもっとも後悔するものですよね。
気に入らないからと言って交換するにしても、重い腰あげてリセットに取り組まなきゃ交換できないし、使わない水槽は思いっきり邪魔だし。
ならば我慢すると言っても、毎日目にする最も目立つ機材ですしね。
あーだこうだとしっかり悩みきって選びましょう。
悩みたくないなら・腕に自信がないなら、ひとまず60cm規格水槽にしておきましょう。